『宇宙戦争』の全訳・英文法解説です。
第7章 第14段落
予備知識

「shell」は「貝殻」だけじゃないよ!
戦車・迫撃砲とかの「砲弾」も指すからね!



「Easter Eggs for Hitler」(左写真下)かぁ(第二次世界大戦中の写真)。
これらの砲弾は「155mm shells」とのこと。155mm榴弾(HE)は21世紀でも主流の榴弾だな。

さて、そういう「shell」を発射する、1900年ごろのイギリスの兵器について見ていきましょ。
もちろん、戦車はないから、大砲とかのいわゆる「野戦砲」よ。

まず、そもそも大砲は最初は攻城兵器だよね。だんだん、人に当てても強いじゃんって思われてきて、野戦砲として対人兵器運用が行われるようになったの。

ナポレオンは野戦砲を効果的に用いたことで有名ですよね。ナポレオン戦争以来、陸軍の主火力は野戦砲でした。第1次世界大戦は戦車とか潜水艦とかの新兵器に目が向きがちですけど、半分以上の死傷者は野戦砲によるものですからね。
野戦砲にはいくつか種類があります。1900年当時は以下のような砲がありました。
①「cannon (gun) (field gun) 」:「大砲」や「カノン砲」「野砲」って呼ばれるものです。砲身が長く、仰角が小さくて、ほぼ水平に弾が飛んでいきます(平射砲)。敵を視認して、直接攻撃を行うのがメインです。機動性があります。
②「howitzer」(読みは「ハウザー」):「榴弾砲」です。砲身はそこまで長くなく、砲の仰角を上げて、曲げて撃ちます(曲射砲)。相手の姿が見えず、位置を計算して間接攻撃するのがメインです。機動性はあまりないです。
③「mortar」:「迫撃砲」です。射程が短く、大きく曲射する砲です。カノン砲や榴弾砲が攻撃するのが難しい、高地や塹壕内にいる敵を標的にします。第一次世界大戦(塹壕戦)になって積極的に使われるようになりました(1900年ごろは不人気です)。
なお、直接射撃の危険性が増したり、技術が進歩したりしたので、カノン砲と榴弾砲の区別は徐々に消えていきました(たいていの砲が直接射撃も間接射撃もできるようになったこともあります)。
以下の図が参考になると思います。


さて、砲の区分がわかったところで、英国陸軍の砲兵の区分を見ていこうかしら。
英国陸軍において砲系を担当するのは「Royal Artillery」(RA)(王立砲兵)。これは一応「regiment」(連隊)だけど、部隊単位というよりは、砲系を担当する各部隊の上位機関ね。
そして、Royal Artilleryには部隊が3つ所属しているわ。①RHA、②RFA、③RGAよ。これらも一応「regiment」だけど、各旅団の一つ上の機関ね。


こないだの図も再掲しておくぞ。


ここら辺の部隊単位はややこしくて頭が痛くなるけど、砲兵はRA > RHA/RFA/RGA > 旅団(≒大隊)> 中隊 という階層構造を理解してもらえればOK。だいたい戦場では「中隊」が行動単位となるわ。

さて、まずはこの小説(第12章)でも出てくる「RHA」ね。RHAは「Royal Horse Artillery」(王立騎馬砲兵)の略よ。
名前の通り、兵士は全員馬に乗っているわ(もちろん、野戦砲は馬で運搬するのが原則よ)。
さらに、軽めの野砲を使うから、Royal Artilleryの中で最も迅速に展開・砲撃・転進ができるのがRHAよ。


ちなみに、騎兵部隊が機甲部隊になったように、RHAも機械化されて、自走砲を管轄する部隊になるんだ。21世紀ではAS-90が有名だな。戦車と自走砲は運営部署が違うことに注意してくれ。


つづいて②「RFA」は、「Royal Field Artillery」(王立野戦砲兵)の略よ。RHA/RFA/RGAの中で最大の規模ね。
こちらはRHAほど展開が速くないかわりに、RHAの砲より大きい中型砲・榴弾砲を運んでいたようね。みんな馬に乗ってたわけじゃなくて、歩いたり、馬車の荷台に乗ったりした人もいたみたい。


なお、馬の時代が終わると、RFAは車両で牽引する榴弾砲を担当するようになったわ。


最後に③「RGA」は「Royal Garrison Artillery」(王立駐屯砲兵)ね。その名の通り、駐屯地に固定されているような陣地砲や海岸砲をメインに、重砲などのほとんど動かない巨大な大砲を担当したわ。だから機動性はほぼゼロよ。
WWⅠ(巨砲戦争)が終わるころには大型砲の役割が失われてきた上、仕事内容がRFAとあまり変わらないこともあって、1920年代にRGAはRFAに統合されたわ。


さて、そろそろ小説本編に寄せていこうかな。
この小説が書かれたのは1898年で、小説中の時代設定は1905~1910年くらいだけど、1899年~1902年の間、ちょうど第2次ボーア戦争(南アフリカで起きたイギリスとブール人との戦争)が起こってるの。
だから、第2次ボーア戦争で投入された兵力・兵器が、この物語でも使われていると考えていいわね。

第2次ボーア戦争で王立砲兵(RA)からは、総計約2万人の兵士が出撃したとのこと。
RHA – 10 Batteries(王立騎馬砲兵10個中隊)
RFA – 25 Batteries including 6 Howitzer Batteries(王立野戦砲兵25個中隊、うち6個中隊は榴弾砲)
RGA – 2 Mountain Batteries and 15 companies(王立駐屯砲兵15個中隊、2個山岳中隊)
が動員されたそうよ。
※以上の内容の出典はこちら
※南アフリカは高地のため、特殊訓練を受けた山岳中隊(Mountain Batteries)が動員されたわ。
※RGAでは山岳中隊を除いて、中隊は「company」と呼ばれるの。ここもややこしい…

中隊は全部で50個ほど。各中隊に5~10門の野戦砲が配備されてると考えると、300~500門くらいは投入しているということだな。

ちなみに、海軍砲も、まだこのころは陸上で使うこともあったのよ。
第2次ボーア戦争では、以下の写真のように、普通に車輪をつけて巨砲にしたり、列車に乗せて列車砲にしたり。



第2次ボーア戦争はひとつイギリスの常識を変えた戦争でもあったんだ。ゲリラ戦が行われたり、鉄道や電信が積極的に使われるようになったり。
もし第2次ボーア戦争がなかったら、第1次世界大戦の結果は変わっていたかも。

とはいっても、RHAに代表されるように、まだまだ動力として昔ながらの馬力に頼っていたのは事実。騎兵だってまだ存在してたし(そろそろいなくなるけど)。
実に35万頭もの馬が亡くなったようね。かわいそうに。

それではようやく本文ですよ。
1文目の「these points」は前段落参照。火星人が酸素と機械のおかげで強力に動けるってことですね。
問題編
But I did not consider these points at the time, and so my reasoning* was dead* against the chances of the invaders*. With wine and food, the confidence* of my own table*, and the necessity* of reassuring* my wife, I grew by insensible degrees* courageous* and secure*.
“They have done a foolish thing,” said I, fingering* my wineglass. “They are dangerous because, no doubt, they are mad with terror. Perhaps they expected to find no living things—certainly no intelligent living things.”
“A shell* in the pit,” said I, “if the worst comes to the worst*, will kill them all.”
reasoning推理 dead否定的な・先がない invader侵略者 confidence信用 table食事 necessity必要性 reassure安心させる by insensible degreesきわめて徐々に courageous勇敢な secure安心した finger触る shell砲弾 if the worst comes to the worst最悪の場合
1. オレンジのandが繋いでるものは?
2. 青アンダーラインの部分の文型表示は?

火星人は穴(pit)(≒塹壕)にいると考えると、榴弾砲で曲射すればいいかしら。
火星人が使うレーザー砲は当然、まっすぐにしか進まないから、間接射撃の榴弾砲だと反撃される危険性も低いわね。
解答編
<英文解釈記号ルール>
〔〕→関係詞句・節
【】→接続詞句・節
《》→挿入句・節
[ ] →名詞句・節
()→副詞句・節
〈〉→形容詞句・節
But I did not consider these points (at the time), and so my reasoning* was dead* (against the chances of the invaders*). (With wine and food, the confidence* of my own table, and the necessity* of reassuring* my wife), I grew 《by insensible degrees*》 courageous* and secure*.
“They have done a foolish thing,” said I, (fingering* my wineglass). “They are dangerous because, 《no doubt》, they are mad with terror. (Perhaps) they expected to find no living things—certainly no intelligent living things.”
“A shell* 〈in the pit〉,” said I, “《if the worst comes to the worst*》, will kill them all.”
1. オレンジのandが繋いでるものは、wine and food, the confidence, the necessityでしょうか。
2. 青アンダーラインの部分の文型表示は上の通り。I grew courageous and secureの第2文型です。「grow C」(だんだん~になる)がまた出てきましたね。
全訳
でもそのときはこれらの点をよく考えなかった。だからわたしは、侵略者に可能性はないだろうと推測した。ワインと食べ物があり、自分の食事がしっかりしてるのを見たうえ、ターちゃんを安心させる必要を感じたので、ほんの少しずつだが勇気と安心感が出てきた。
ワイングラスを回しながらこう言った。「火星人もばかなことするよね。ぜったい恐怖で狂ってるから危険だよ。きっと、生き物なんていないはずだって思ってたんだろうね。まして知的生命体なんて絶対いないはずだって」。そして「最悪、あの穴に砲弾を叩きこめば全滅させられるよ。」と言った。

ボーア戦争はまさにこの宇宙戦争同様、平和ボケしていたイギリス国民を目覚めさせるひとつの大きなきっかけになったわ。


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